実家が無くなるのということ
「事務所さ、壊すことになるかもしれない。」
と夫が言ってきました。
夫は自営業で、実家兼事務所になっています。両親は既に亡く、そこには独身の弟がひとり住んでいます。
この度、隣家が新築するので土地を売って欲しいと頭を下げに来られたのだそう。
家は古い部分で築100年くらいの商家のつくりで、間口が狭く奥行きの長い間取りです。
昭和40年代に奥まで続く土間を塞いで廊下にして、かつて店舗だった広い土間も洋間にしたり、あちこち魔改造したので古民家の趣きはなく、戦前レトロと昭和レトロがケンカしたような感じ。
要は古いお家です。
売るってことになれば、引越し先を探さなければならない。
賃貸にするか、新たに建てるのか。
それなのに何故か夫は会社ごと売却して自分はリタイヤするかな…の空気を漂わせています。
おいおい、大丈夫か。
夫の話をフンフンと聞いてから
「生まれ育った家が無くなるというのはさ、さみしいろう?」
と言うと
「それは俺のノスタルジーでしかないから。」
と強がっていますが…
「自分の住んだ家が壊されて無くなるのって、やっぱり泣けてくるもんだよ。私、子どもの頃泣いたもん。」
結婚して、実家で暮らした年月よりも、この家で暮らした年月の方がお互いに長くなったけれど、それでも夫は毎日、実家へ通っていたわけで。
そこにあって当たり前だった場所。
離れても心の拠り所であり、今は亡き両親との思い出も沢山詰まっている家です。そりゃガックリするよね。
私だって、いつかは実家が無くなる日が来る。母が居なくなったら、兄はあの家に住む理由がなくなるし、そのことをふと思ったら淋しくなります。
そんな事を話してから
「でも、ごめん。たぶん私の方が長生きすると思う。それで今のままで20年後なのか30年後なのか兄弟皆んな死んじゃったら、あの家をどう処分していいのか、私は途方に暮れると思うんだ。
解体費用もあるし、土地は売れないだろうし。子どもたちの負担になるし。
私たちの代で負の遺産になりそうなものを処分できたら、そっちの方がいいと思うんだ。」
と言うと、
「それもそうだな。夢も希望もないような気分になっていたのは、実家がなくなるって事だった。胸の辺りにズンときてたのは、それか。
なんかスッとしてきた。骨肉の争いになっても嫌だしな。」
売れない土地を買ってもらって、そこから解体費用を差し引いてもプラスになるなら、ノスタルジーは横に置いて、ありがたい話ではないか。
混沌とした世の中だし、新しく事務所を建てず賃貸で身軽でいた方がいい。
使い勝手が悪くなったら引っ越せばいいし、リタイヤしたくなった時も簡単でいい。
実家にあるお仏壇は、我が家で引き取ればいい。
段々と夫の顔も明るくなってきました。
暖かくなったら、少しずつ夫の実家の片付けを始めて、引越し先を探して、引越して…忙しくなりそうです。
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