母の見守り
脳出血で3ヶ月入院していた母が退院して、もう翌日には洗濯したり掃除をしたり、ワンちゃんのお世話をしたりと、じっとしていることがない。
ご飯を炊いて、毎日お味噌汁も作る。それでも
「退院したばかりだから、料理はまだしない。」
と言っているので、それがいいねと思っていた。
私や母の友だちがお裾分けしてたり、同居する兄が作ったりしている。
後遺症の失語症で言葉はスムーズに出てこなくて、もどかしいだろうけど、これなら日常生活には問題もなさそうだな、と一安心していた。
母も外へ出たり食べたい物もあるだろうと、一緒にスーパーへ行ったら、お惣菜を眺めては
「これは何?」
を連発。
なすの煮浸しだよ。
ほうれん草の胡麻和えだよ。
ハムカツだよ。
と答えるのだけど、
「ハムって何だっけ?」
「なす?美味しいかなぁ?」
「胡麻和え?」
そうか、そのモノと名前が結びつかないのか、とその時は思っていた。
お味噌汁は作るから、
「ネギもいる?」
と聞くと反応がなくて、野菜売り場で
「これ、ネギいる?」
と指差すと
「うん、味噌汁に入れるから欲しい。」
本体を見せて、その名前を言って結びつけないとなんだな、と思っていた。
ある日、
「何でもわからなくなってしまったんだ」
と言いながら、味噌汁には味噌とコレ入れたらいいと思うんだ、とか
「醤油とか砂糖とかあるんだけど、どうやって使うのかわからなくなったんだ。」
と言い出して。
これまでの味噌汁作りは結果オーライだったのか。
料理はしないのではなく、本当はできないんだとわかった。
洗面所へ連れていかれ、
「洗濯するには、コレを入れて…いいよね?」
「うん、正解。(これも結果オーライだったのね…)」
「これは何?」
と柔軟剤のボトルを指差す。
「柔軟剤だよ」
「柔軟剤って何?」
「洗濯機のここに入れるやつ。」
「ああわかった。あと風呂のね、どれで頭洗うのか、身体洗うのか、顔洗うのか、わからない。」
「えっ⁉︎」
「泡が立つからいいやと思って、何だかわからないけど使ってたんだ。」
それで、一つ一つ教えたんだけど。
数日後、
「頭を洗うのがないから買いたい。」
と言い出した。
「いや、あるよ。この間見たじゃん。」
「えー?そぉ?」
「じゃ、また教えるね。買わなくていいよ。」
納得していない様子だったけど買いませんでした。
出掛けた帰りにランチをしたら、写真付きのメニューなのに、全くピンとこない様子で、どのページを見ても
「これは何?」
失語症で名詞が出てこなくなった、だけではなくて、これまで当たり前に知っていたことが、スポッと抜け落ちて、わからなくなってしまったようだ。
毎日していたお化粧も。化粧BOXを開けて
「こんなにいっぱい、どうやって私使ってたんだろう。」
とため息をつく。
「お洒落さんだったね〜。」
と笑わせているけれど。
これは…認知症? 記憶障害?
驚きと戸惑いと。
ただ思考はちゃんとしているようなので、本人を傷つけないように、しばらく観察していこうと思うのでした。
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